トランスジェンダー起業家・遠藤せなさんが語る「自分らしい生き方」のヒント

〜Change/me特別セミナー開催レポート〜
2025年2月15日、代官山とオンラインで同時開催されたChange/me主催の特別セミナー「ジェンダー課題から見つめる自分らしい生き方」。
ゲストとして登壇されたのは、11社の経営に関わりながら、LGBTQ+を取り巻く社会課題に向き合い続けるトランスジェンダー起業家・遠藤せなさんです(以下:せなさん)。
美容や健康にとどまらず、「自分らしく生きること」もまた、「Change/me」が目指す美しさ——。
そう考える私たちは、今回「多様性」や「個性」に向き合いながら道を切り拓いてきたトランスジェンダー起業家の、遠藤せなさんをお迎えすることにしました。
今回はそのセミナーの様子と、印象深いインタビュー内容をお届けします。

【登壇者紹介】
遠藤 せな
1994年静岡県沼津市生まれ。
女性の身体で生まれ性自認は男性の、FTM(Female to Male・エフティーエム)トランスジェンダー。
性的マイノリティとして生きる自身の体験から、2021年にLGBTQ+向けの商品やサービスを紹介するポータルサイト「CHOICE.」を立ち上げる。
現在は起業家、SDG’s/ジェンダー研修講師、CSV経営コンサルタントとして、誰もが個性を尊重しあえる世界を目指し、ジェンダーニュートラルな考え方・取り組みを広める活動を行う。
「同じに見えること」に違和感を持った子どもたちの問い

せなさんは冒頭で、自身の印象的なエピソードを紹介されました。オーストラリアから来日した友人家族の子どもたちが、日本の渋谷を歩く人々の風景を見て、こう尋ねたのだといいます。
「どうして、みんな同じなの?」
オーストラリアは、いわゆる“多文化社会”です。肌の色が違う人もいれば、目の色も髪の色も、生き方もバラバラ。
それが当たり前の環境で小さい頃から過ごしてきた彼らにとって、「日本の街の人が“同じに見える”」ことは、とても不思議だったのでしょう。
「もちろん日本にも今、海外の方や様々な背景を持つ方が増えています。けれど、やっぱりオーストラリアと比べると、多様性の受け入れや可視化という点では、日本はまだまだだと感じる部分があります」
LGBTQ+とは何か?

せなさんは、LGBTQ+のそれぞれの意味を丁寧に解説しました。
L:レズビアン(女性の同性愛者)
G:ゲイ(男性の同性愛者)
B:バイセクシュアル(両性愛者)
T:トランスジェンダー(身体の性と心の性が異なる人)
Q:クィア/クエスチョニング(性別が未確定・再考中の人)
+:これらに該当しない、全ての多様な性の表現
「10人に1人が該当する」といわれているこのテーマについて、せなさんは「知らないだけで、きっとあなたの周りにもいる」と話します。
だからこそ、“自分には関係ない”と思わずに向き合うこと。これが「多様性」が当たり前になり、誰もが自分らしくいられる世界への最初の一歩になるのかもしれません。
「無意識の偏見」が生きづらさの根源

学校生活での不便、社会制度上の壁、就職時や医療現場での配慮不足——。トイレや制服の選択肢がない、婚姻制度が同性カップルに適用されない現実。
せなさんは、日本で起こっているこれらの事例を紹介しながら「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」が多くの生きづらさを生んでいると語りました。
男性だから理論的、女性だから感情的、高齢だからデジタルに弱い、若いからリーダーには向かない…。
こうした“社会的イメージや思い込み”から生まれた感覚は、多くが歴史や制度、文化、メディアの影響によって知らぬ間に刷り込まれてきたものだと、せなさんは指摘します。
生まれたときからその価値観に囲まれていると、自分がバイアスの中にいることにすら気づけないまま、次の世代へと無意識に受け継がれていくのかもしれません。
「偏見や差別をしているつもりがなくても、構造がそうなっている社会で生きていると、知らず知らずのうちに誰かを傷つけていることがあるんです」
——では、私たちは何をすればいいのでしょうか。せなさんの言葉に「知った今からはどうするか?」のヒントがありました。
特別扱いして欲しいわけじゃない。LGBTQ+として同じ社会に生きているだけ

せなさんが強く語ったのは、「まずは“気づくこと”がすべての始まりである」ということ。
自分のバイアスに気づくこと。 多様な人と関わること。 他者の意見に耳を傾けること。 意思決定のプロセスを見直すこと。
どれも特別なことではないのに、無意識に見過ごしてしまいがちです。
だからこそ“意識する”という、小さくても確かなアクションが大切だと、せなさんは繰り返し伝えていました。
「“特別扱いしてほしいわけじゃない”。LGBTQ+の人たちも、あなたと同じように生きている、ただそれだけなんです」
偏見や同情ではなく、隣にいる一人の人としてまっすぐに見てほしい。その願いが、せなさんの言葉から伝わってきました。
当事者の声をカタチに──どんな人にも「選べる自由」を

せなさんはトランスジェンダー当事者としての経験から、「こんなサービスがあればいいのに」「こんな商品を探しているのに見つからない」と感じた課題を、実際の行動で解決しようとしています。
そのひとつが、LGBTQ+当事者やその家族、支援者のための情報ポータルサイト「CHOICE.(チョイス)」の運営です。
生理用ナプキン対応のボクサーパンツ、20cm〜とサイズ展開が幅広いオールジェンダー対応の革靴。

ジェンダー外来のある病院、オンラインで取得できるパートナーシップ証明書、当事者が安心して行ける保険相談窓口など、セクシュアリティにかかわる「選べる暮らしの選択肢」をまとめて紹介。
商品・サービスともに掲載・利用は無料で「調べても出てこなかった」「調べ方がわからなかった」からはじまる“行き止まり”を減らしています。
また、ポータルを起点としたイベント「GOOD CHOICE MARKET.」や、地域の学校と連携して行うジェンダー教育、企業研修など、情報だけでなく“人と人が出会える場”の提供にも積極的です。
「LGBTQ+を“特別な人たち”とせず、どんな人も生きやすいまちをつくる」。
せなさんの活動は、まさにその未来を、日常の中から描こうとする試みです。
カミングアウト…短い手紙と3万円に込められた母の思い

「自分の性のことを、母に言うのが何よりも酷だった」と、母へのカミングアウトを振り返るせなさん。
「当時20歳で、翌週には成人式が迫っていました。でも、私は女物の振袖を着たくなかったんです」
強くていじっぱりな性格の母には、これまで何度も話そうとしては、「そういう話はしないで」と止められていました。
それでも「もう自分を偽ることはできない」と覚悟を決めて、「自分は男性として生きたい」と心の内を全て伝えました。
翌朝、机の上に置かれていたのは、3万円と短い手紙。
『これで自分の好きなものを着なさい』
普段は泣かないせなさんも、この時ばかりは号泣したといいます。女手一つで育ててくれた母にとって、3万円は楽な金額ではなかったはずだと…。
それでも「せながどういう人になっても、私の自慢の子どもです」という母の言葉を受け「もう誰に何を言われても、自分らしく生きていこう」と誓いました。
このエピソードには、思わず涙を浮かべる参加者の姿も。まっすぐな親の愛に、誰もが心を打たれた瞬間でした。
“巻きコミュニケーション”という新しいリーダーシップ

せなさんは「巻きコミュニケーション」という言葉を使い、自分のやりたいことを本気で伝え、周囲を巻き込んでいく力について語りました。
協力を求めるというより、「この人とこの人を繋げたら面白いかも」と自然な流れをつくるのが、せなさん流。
「巻き込むからには、相手にとっても何か意味があるように」
「自分がやりたいことを、本気で伝える。それが誰かのためにもなることなら、きっと協力者は現れます」
そう語るせなさんの姿には、熱意と優しさがにじんでいました。
未来へ——「行動こそが変化の第一歩」
最後にせなさんが語ったのは、「今すぐ動こう」というメッセージ。「完璧でなくていい、まずはやってみること。小さな一歩を踏み出すことが、大きな変化につながります。
編集部後記
今回のセミナーを通してあらためて感じたのは、「自分らしさ」とは誰かに決められるものではなく、自分で見つけ、育てていくものだということです。
自分を見つめ、受け入れることで生まれる本当の輝き。
社会的な枠組みにとらわれず、自分らしく生きる新しいライフスタイル。
あなたの変化のそばに、いつもChange/meがいられますように。